MS法人の役員について、説明してください。

10年ほど前から、MS法人で役員を勤めている。昨年、MS法人の代表取締役となる
ことができた。
今年に入ってから、父から医療法人を継承することになってしまい、理事長に就任する
準備を始めた。
しかし、社員総会で認めてもらえず、また専門家からも原則的には兼任すべきではない
と指摘を受けてしまった。

<失敗のポイント>
 取引関係のあるMS法人の代表取締役と医療法人の理事長の兼務は原則認められることはない。また、仮に現時点では取引がなかったとしても、同業の営利組織であるMS法人の代表取締役との兼務は避けるべきだとの医療法人の社員総会の見解は妥当な判断をいえるだろう。

<正しい対応>
 MS法人の代表者が医療法人の代表者であることについては、特に医療法人において営利法人の影響を受ける可能性が存在している。医療法人の大原則は、「非営利性」となっている。つまり、利害関係のあるMS法人の代表者が医療法事の理事長になることは非営利性に抵触するといえるだろう。
 医療法人の「非営利性」を損なわない役員構成を大前提とした上で、両組織のガバナンスを考える必要があると考えられる。

<税法等の解説>
医療法人の役員
 MS法人は、多くの場合において、発起人の関係する(役員となっている)医療法人と取引関係を持つことが多いことがあるため、法律上、適切な役員構成を検討しておく必要があると言えるだろう。

○ 医療法人理事長の場合
医療法人とMS法人は、必然的に取引関係にあって利害が相反する立場同士となる。
つまり、「医療法人」と「MS法人」の代表者(理事長と代表取締役)が同一人物である
と利害相反する立場を同一人物が行うことになってしまうことに留意しなければならない。
 理事は、法人から業務執行につき「委任」を受けた形になっている。
 利益相反する2法人の代表者が同じ人物である場合においては、医療法人はその意思決定において、原則である非営利性を貫く必要があると考えられる。
 一方で営利法人であるMS法人については、会社という性質上利益(営利)を追い求めることになるようである。
 したがって、同一人物が両法人の(理事会・取締役会等の審議を経ていても)代表権・業務執行権を持っていることから、医療法人において営利法人の影響が出る可能性があるようだ。
 医療法人の大原則である「非営利性」に抵触するといえるだろう。
 MS法人の代表取締役については、医療法人の理事長との兼任を避けることが重要となる。

○ 民法108条の自己取引・双方代理
取引を行う両法人の代表者が同一になれば、民法108条の自己取引・双方代理に当た
ることになる。
 医療法人とMS法人の取引関係が、単なる債務の履行に当たる場合において、もしくはあらかじめ理事会・取締役会で許諾があった場合については、取締役会で承認があった場合などについては、同条2項や判例等によって、双方代理禁止の定めは適用されることはない。
 しかし、医療法人とMS法人の関係をみる場合においては、医療法54条の主旨とする医療法人の非営利性という観点からみれば、やはり医療法人理事長とMS法人の代表取締役は兼務しないことが賢明だろう。

○ 理事長ではない理事の場合
理事は、民法上では対外的に法人を代表するとされている。
しかし、医療法人においては、定款により理事長だけが医療法人を代表することとなっ
ている。
 医療法人の平理事(代表権のない理事)がMS法人の代表取締役を兼ねることについては、必ずしも非営利性を阻害することはないと考えられる。
 それとは反対に、医療法人の理事長がMS法人の平取締役を兼ねることも、同様のことがいえる。
 つまり、法律では、平理事がMS法人の役員を兼ねることは禁じられてはいない。
 しかし、医療法人とMS法人の取引の実態をみてみると、医療法人からMS法人に過大な支払いがなされているような場合も存在している。
 また、MS法人の役員報酬が過大な場合については、事実上医療法人の利益が分配されているとみられているような場合もあるようだ。
 このようなことから、医療法人行政の現場においては、下記の2つの要綱・通知を根拠に、「病院・介護老人保健施設を経営する」医療法人とMS法人(その他取引のある営利法人)の役員の重複を認めない「行政指導」がなされているようだ。

○ 都道府県における兼務を認めない根拠
各都道府県の手引書などでは、取締役と理事の兼職を認めないと書いてあるものがある。
 医療法人運営管理指導要綱の対象については、すべての医療法人ではなく、病院・老人保健施設を開設する医療法人となるが、都道府県の指導内容は、診療所に対しても同様の指導をしているケースも存在している。
 けれども、通知(行政指導)は、それ自体が法的拘束力を持つものではないことに留意しなければなりません。したがって、通知に反して理事と取締役を兼務したとしても、それが即違法行為にはならないのである。
 したがって、コンサルタント等によっては、兼職を可としていることもあるようだが、行政指導を受ける可能性がある場合もあることに、あらかじめ留意した上で、役員構成を検討することが重要となるだろう。また、厚生労働省は今後の方向性として、「医療法人とMS法人間に取引関係のある場合において、あるいは医療法人が出資を受けている場合については原則兼務を認めない」という方針を示唆していることに留意しなければならない。

<税理士からのPOINT!>
 医療法人の非営利性とMS法人の営利性とを、きちんと管理することが重要となる。両法人にとって、もっとも適切な選択肢を選ぶことが大切となる。